スマートフォンの最新モデルといえば、今や10万円を超えるのが当たり前になってしまった。そんな中グーグルから発売された「Pixel 7」は、フラッグシップでありながら82,500円(執筆時点)という価格設定で注目を集めている。
端末の売上で稼ぐ収益モデルは、この企業に適さない。それでもPixel 7を使ってみると、できる限り多くのユーザーに端末を行き渡らせ、定着させようという意図が感じられた。価格に見合わない完成度の高さが、そこにあるのだ。
まるで花のように美しく、それでいて上品な佇まいに見惚れてしまう。レモングラスの筐体を手に取るたびに、気持ちが華やぐ。中身も素晴らしい。OSのアップデートが5年間保証されるほか、他のAndroid端末には無い便利な機能をたくさん備えている。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
Google Pixel 7 | ||
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メーカー | ||
発売日 | 2022年10月(国内) | |
ハード | 質量 | 約197 g |
サイズ | 155.6×73.2×8.7 (mm) | |
ディスプレイ | 6.3インチ AMOLED | |
解像度 | 2400×1080(FHD+), 416ppi | |
リフレッシュレート | 最大90Hz | |
バッテリー | 4,355mAh | |
充電 | USB PD 3.0 (30W)、 ワイヤレス充電 : Qi (20W) リバース充電対応 |
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防水防塵 | IP68 | |
インターフェース | USB TypeC 3.2 Gen2 | |
ソフト | OS | Android 13 |
SoC | Google Tensor G2 | |
RAM | 8GB | |
ストレージ | 128GB/256GB | |
カメラ | リアカメラ | 50MP(広角)、12MP(超広角) |
フロントカメラ | 10.8MP(広角) | |
機能 | ネットワーク | 5G Sub6、4GLTE |
SIM | nanoSIM×1、eSIM×1 | |
センサー | 画面内指紋認証 | |
その他 | Wi-Fi 6、NFC対応 Felica対応、インカメラ顔認証 |
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カラバリ | レモングラス、スノー、オブシディアン |
128GB/メモリ8GB : 82,500円 (税込)
256GB/メモリ8GB : 97,900円 (税込)
可憐で上品なデザイン
新しいPixel 7は、「Pixel 6」から変更されたプロダクトデザインを継承している。外観で目立つのは、帯状のカメラ部分がブラックからマット仕様のアルミニウムに変わった点だ。
くり抜かれたカメラ部分には一般的な外縁がなく、スタイリッシュな印象を受ける。背面が単色になったこともあり、ポップというよりは上品な仕上がりに感じられた。
Pixel 7は、前のモデルと比べて幅が1.6mm、奥行きが3mm、厚さが0.2mm短くなっている。その差はわずかだが、手に持ってみると収まりの良さがまったく違うことに気づいた。
ディスプレイは6.3インチと依然大きいが、「Pixel 7 Pro」の6.7インチに比べればかなり小さく感じられる。特に横幅がスリムになっているので、サイズの割に片手での操作性は良好だ。
フラットな前面形状も悪くない。側面がわずかにカーブしている「Pixel 7 Pro」と比べて、とても扱いやすい。側面がベゼルと異なる色になったことで、前から見た時の洗練さも増している。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
Pixel 7は先代より10gほど軽くなったが、おもちゃのように軽かった「Pixel 4」や「5」に比べれば、かなりずっしりとした重みがある。
Pixel 7で気に入っている点がいくつかある。顔認証が新たに追加され、従来の指紋認証に比べてロック解除がスムーズになった。ただし「iPhone」のようなセンサーによる認証ではなく、あくまでインカメラによる単純な画像認識である。そのため暗い場所ではうまく動作しないし、決済やログイン時の本人認証には使えない。
前面のAMOLED(アクティブマトリクス式有機EL)ディスプレイは最大90Hzでなめらかに駆動し、輝度も高くなった。
Pixel 7のバッテリー容量は4,355mAhで、ライトな使い方が中心なら丸一日は問題なく使える。30W出力のチャージャーと対応するケーブルを使えば、約30分で50%の容量を蓄えられる。最大20Wのワイヤレス充電や端末同士のバッテリーシェアに対応している点もありがたい。
新機能を支える独自チップ
Pixelシリーズは、グーグルの得意とするソフトウェアやAI分野の先進技術を詰め込んだ”見本市”としての特性をもつ。周囲で流れている曲の名前を教えてくれたり、プレイリストに追加してくれる「この曲なに?」という機能が良い例だろう。

周囲で流れている音楽を聞き取り、曲名を教えてくれる「この曲なに?」機能

「レコーダー」アプリでは、録音内容をリアルタイムで文字起こしできる
最近は特に、 Pixelの「レコーダー」アプリを好んで使っている。聞き取った音声を、リアルタイムで文章に書き起こしてくれる機能だ(もちろん、日本語にも対応している)。この手のアプリをいくつか使ったことがあるが、Pixelの文字起こし機能は標準で使えて、なおかつ精度が高いのも嬉しい。
ほかにも、試聴している動画や録音内容をリアルタイムで翻訳したり、通話の際に人の声だけを選り分けて強調してくれる機能などが気に入っている。
こうした便利な機能の多くは、Pixelのために独自開発された「Tensor」チップが実現している。単純処理に特化した高性能チップではないが、Tensorを組み込んだTPU(テンソル・プロセシング・ユニット)はオンデバイスAIによる学習と推論処理のパフォーマンスに長けているのが特徴だ。
実測値。 SOURCE : GeekBench
Pixel 7ではカスタムプロセッサーの第2世代となる「Tensor G2」が搭載され、AI処理の性能が飛躍的に向上している。たとえば「夜景モード」で撮影するのにかかる時間は、Pixel 6のおよそ半分である。新機能のひとつ「ボケ補正」では、Pixel以外のカメラで撮った写真でも、機械学習アルゴリズムによるシャープな補正が可能になった。
リアルタイム翻訳や文字起こしもそうだが、このように短時間で実行される複雑な処理を現状のクラウドサービスでまかなうのは難しい。Pixel 7は機械学習をローカルに組み込むことで、他のAndroid端末にはない高度な機能を提供しているのだ。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
4倍ズームでも実用的
Tensor G2の実力が如実に現れるのは、やはりカメラだろう。AI処理を駆使したコンピュテーショナルフォトグラフィーがPixel 7の醍醐味とも言える。
背面はメインとなる広角カメラと超広角カメラからなり、メインカメラのスペックは先代と共通している。Pixel 7では5000万画素センサーの中央部分をクロップすることで、高精細を保ったまま2倍のズーム撮影が可能になった。デジタルズーム(Pixel 7では最大8倍)のアルゴリズムも改良されており、4倍程度ならディテールを潰すことなく実用的な出来栄えに仕上げてくれる。

超広角(0.7倍)

広角(1倍)

望遠(2倍)

超望遠(8倍)
Pixelの作例で特に素晴らしいと感じるのは、色の再現度だ。人種や環境を問わず肌の色を自然に表現する「リアルトーン」は、Pixel 6から搭載されている機能だが、新モデルでは改良が加えられている。
ポートレートの画質も向上している。特に薄暗い屋内では、Pixel 6に比べてより光量と発色に優れた写真を撮影できた。髪先や物体の輪郭を正確に捉えるので、昔のようにボケ処理で盛大に失敗する作例はほとんどない。
新たに追加された「ボケ補正」機能はGoogleフォトに組み込まれており、別の端末で撮った過去の写真にも適応できるのが特徴だ。撮影時にピントが合わなかった写真でも、後からディテールを補正することができる。そのほか、背景の人や物体を消せる「消しゴムマジック」機能や、長時間露光と流し撮りを再現できる「モーションモード」も引き続き搭載している。詳しくはPixel 6の作例を見てほしい。

「モーションモード」による長時間露光の作例。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
インカメラは1080万画素で、4K60fpsの動画を撮ることができる。ただ最新のiPhoneのようなオートフォーカス機能は搭載されておらず、作例によっては「ボケ補正」に頼らざるを得ない場面があった。
多くの作例において、全体的なクオリティはPixel 6とほとんど変わらない。とはいえPixelシリーズの写真性能はもとから高いので、特別不満に思う点もなかった。特に薄暗い屋内や夜中の作例では、iPhoneやその他のフラッグシップを上回っていると感じるものが多かった。
動画撮影には足りない部分も
Pixel 7には4つの手ぶれ補正機能があり、「標準」モードでも滑らかな動画を撮ることができる。4K60fpsはもちろん、4K30fpsで撮れる新しい10ビットHDR動画も鮮やかで美しい。
新しく追加された「シネマティックモード」は、撮影中に被写体や背景をぼかせる機能だ。雰囲気のある映像がかんたんに撮れるのは魅力だが、画質は1080pに制限される(最新のiPhoneは4K画質に対応している)。iPhoneの「シネマティックモード」と異なり深度情報を記録しているわけではないので、あとからピントを変えたりボケ具合を調整することはできない。
そしてどうしても気になるのが、手ぶれ補正をオンにした時に見られる画面のひずみである。この点もiPhoneの方が優れていて、動画における機械補正の限界を感じてしまった。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
“グーグル帝国”への招待状?
Pixel 7は相変わらず、フラッグシップに必要なほとんどの機能をおさえている。90Hzのリフレッシュレートに対応する有機ELディスプレイ、5G対応、ワイヤレス充電、リバース充電、画面内指紋認証などだ(今年は顔認証も追加された)。
これだけ完成度の高い端末が82,500円で手に入るのは、まさに破格と言えるだろう。古いPixel端末を下取りに出すか公式ストアのキャンペーンを適用することで、実質無料で手に入るか、あるいはリワードさえ得ることができる。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
端末の売上をビジネスの核とするアップルと異なり、広告事業が主体のグーグルにとって、Pixelは自社サービスへの入り口として位置付けられているのだ。実際、グーグル謹製のサービスやシステムの恩恵を最大限に得られるのはPixelだけだろう。
より大きな画面と高度なカメラ性能を求めるなら、「Pixel 7 Pro」を選ぶのも良い。グーグルはシリーズ初のスマートウォッチを発表しており、来年はタブレットの発売も予定しているという。Pixelのエコシステムは徐々に拡大しており、「グーグル帝国」への招待状としてその効果を発揮するかもしれない。