グーグルがスマートウォッチの独自開発に取り組んでいるという噂は以前からありましたが、2022年になってようやく最初のスマートウォッチ「Pixel Watch」が発売されました。
ほかのスマートウォッチと同じ「Wear OS」で動くものの、Pixel Watchだけの独自機能も搭載することで、「Pixel 7」シリーズと同様の戦略をとっています。
さらに、フィットネストラッカーの豊富なノウハウを持つフィットビットを2019年に買収しており、Pixel Watchでもその恩恵を享受することができます。
こうした売り文句を引っさげて登場したにも関わらず、スマートウォッチ界隈では大きな話題を呼ぶことなく、現在もくすぶっている印象を受けます。気になったら、実機を試してみるまで….使ってみると、Pixel Watchの魅力や課題が見えてきました。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
Google Pixel Watch | |
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ケースサイズ | 41mm |
ディスプレイ | AMOLEDディスプレイ |
解像度 | 320ppi |
本体素材 | ステンレス |
耐水性能 | 5気圧防水 |
ウェルネス | 心拍変動(光学式心拍数センサー) 血中酸素センサー 睡眠スコア・睡眠管理 Fibbitアプリで対応: ストレスマネジメントスコア、気分 マインドフルネスセッション、月経周期トラッキング |
SOS | 転倒検出 |
バッテリー | 最大24時間 |
本体素材 カラー |
Matte Black(マットブラック) Polished Silver(ポリッシュシルバー) Champagne Gold(シャンパンゴールド) |
サイズ | 41mm × 12.3mm |
重量 | 36g |
ファッション性に優れた一台
日常的に身につけ、人目にさらされるウェアラブルデバイスだからこそ、デザインは重視すべきポイント。Pixel Watchの外観は数あるスマートウォッチのなかでもファッション性が高く、「機械をつけている」感覚を抱かせない仕上がりになっています。
つけ心地も優れています。丸みをおびた筐体と適度にやわらかいバンドのおかげで、装着時の圧迫感がありません。
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ラウンド形状(丸型)を採用する本体の外観は、アナログ式の腕時計とよく似ています。表面はドーム状に隆起しており、光の当たり方で幾重にも輝く様子は思わず見惚れてしまうほどの美しさです。
ただし、欠点がないわけではありません。竜頭(りゅうず)の横にあるトップボタンは背面側へ回り込んだ位置にあり、押しにくさを感じます。
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ディスプレイはAMOLED(アクティブマトリクス式有機EL)を採用しており、色鮮やかで明るさも十分。ところが肝心の画面サイズがかなり小さめで、通知を確認したりチャットをするには手狭に感じられます。
本体サイズに比して画面の領域が狭いので、そのぶんベゼルはかなり太く見えます。背景が黒の文字盤やアプリでは気にならないのですが、マップや写真などのコンテンツを見るとベゼルの太さが特に際立ちます。
バリエーションに乏しい
ウェアラブルに求められるデザイン性を語るうえで、バンドのカスタマイズは欠かせません。たとえば「Apple Watch」には、プライベートからビジネス用まで様々なバンドが用意されており、用途やシーン、気分で付け替えておしゃれを楽しむことができます。
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対してPixel Watchでは、こうした楽しみ方が制限されています。パッケージ付属の「アクティブバンド」はシンプルなデザインで着脱も容易ですが、ほかのバンドは選択肢が少なく、付け替えたくなるような魅力も持ち合わせていません。
これにはPixel Watchが「グーグル」ブランドで初めてのスマートウォッチであるのと、ストラップの着脱に独自規格を採用したことが影響しています。このため現在はグーグルが自ら用意した数種類のバンドから選ぶしかない状況です。
バッテリーにも難あり
また充電システムも独自規格になっている関係で、Pixel Watchを使うために充電器が増えるのは少しストレスです。背面がドーム型になっているため、Qi規格のワイヤレス充電器も使えません。
iPhoneとApple Watchの場合は、両方を同時に充電できるステーションハブなどのアクセサリが豊富に出回っているので、こうした欠点をある程度カバーできます。たとえばPixel Watch専用の充電スタンドや、ワイヤレス充電兼用のモバイルバッテリーなどがあれば、より実用的な使い方ができるはずです。
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バッテリーの持続時間も、決して優れているとはいえません。 バッテリーセーバーをONにすれば、常時表示や手首を傾けて画面をつける機能は使えないものの、1日から1日半の使用は保証されます。一方、通常使用ではフル充電で24時間もたないケースもありました。こんな状況なので、常時表示ディスプレイは諦めたほうが良いでしょう。
いずれにせよPixel Watchを使うとなれば、毎日忘れずに充電するか、専用の充電器を持ち運ぶ覚悟が必要になります。
最新のWear OS 3を搭載
Pixel Watchには、グーグル提供のOS「Wear OS 3」が搭載されています。ただしWear OSで動くそのほかのスマートウォッチと異なり、「iPhone」に接続できない点は注意が必要です。
Wear OS 3は子会社のフィットビットとサムスン、そしてグーグルが共同開発したスマートウォッチ向けOSです。機能はシンプルですが、ウォッチ向けに最適化されたグーグルの純正アプリが利用できます。
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たとえば「Gooleマップ」では目的地を音声で伝えるとウォッチ上から経路を案内してくれたり、「Googleウォレット」で非接触の支払いができたりします。改良が施された「Googleアシスタント」は非常にレスポンスが早く、曖昧な聞き方をしても大半は正確に答えてくれます。
音声入力の精度がとても高いので、声だけでメッセージを返すといったことも実用的なレベルで可能です。
センサー周りは多くの機能が未だ実装されていません。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定や転倒検知は今後利用可能になるとしています。心電図は測定できますが「ただ測るのみ」で、Apple Watchのように心拍の乱れや不規則なリズムを通知することはできません。
私の身体データはどこに?
Pixel Watchの健康関連データとフィットネス機能は、2019年にグーグルが買収したフィットビットと、その提供アプリ「Fitbit」によって管理されます。
ユーザーの健康とフィットネスを管理するプラットフォームがプリインストールされたことで、心電図から睡眠トラッキングまで膨大なデータを管理できるのがPixel Watchの強みです。
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健康に関する様々な指標と自分が定めた目標に対する日々の達成具合は、モバイルアプリ上の「Fitbit Today」から確認できます。計測した心拍数やワークアウトのデータは反対側の腕に付けていたApple Watchとかなり近く、一定の精度を裏付ける結果でした。
一方でグーグルには「Google Fit」という純正のフィットネスアプリがあり、WearOS搭載のスマートウォッチならどの機種でも、Playストアからダウンロードすることができます。
さらにPixel Watchが記録したデータや便利なフィットネス機能には、FItbitのモバイルアプリでしか見れないものと、スマートウォッチ上で確認できるものがあります。問題は両者の似通ったサービスが混在しており、かつグーグルが自身のエコシステムに「fitbit」の機能を上手く統合できていない現状にあるのです。
こうした複雑なシステムのせいで、自分のアクティビティがどこに保存されているのかわからなくなるケースが多々あります。たとえばワークアウト機能の一部はPixel Watchから直接確認できず、わざわざFitbitアプリを開いて記録を探す手間がかかるのです。
Fitbitアプリの使いにくさも気になります。iPhoneの「ヘルスケア」と「フィットネス」アプリを一つにまとめたような感じで、いろいろなデータが雑多に並んでいるため、目的の情報を探すだけでも一苦労です。
健康管理のためにスマートウォッチを買うにしても、自身の身体データをアプリで詳細にチェックする人は限られています。「今日は何kcal消費しました」とか「直近の心電図波形に異常はありませんでした」などとスマートウォッチが教えてくれるだけで、実は十分なのです。そこから気になった項目をピックアップして確認するのが最も合理的ではないでしょうか。
今後のブラッシュアップに期待
Pixel Watchには39,800円(税込)のWi-Fiモデルと、47,800円(税込)のセルラーモデルが用意されています。いずれも価格を考えると、もう少し機能を充実させてほしいと感じます。とはいえPixel Watchは第1世代ですから、多少の粗が目立つのは仕方のないこと。むしろここからどう完成度を高めていくかが重要です。
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グーグルにはWear OSを何年も前から普及させてきた実績があり、様々なフィットネストラッカーを展開してきたフィットビットを傘下に納めています。これらの価値を集約させ、ハードとソフトの両面を磨いていくことが開発の鍵になるでしょう。
そしてPixel Watchに群を抜いて美しいデザインがあり、完成度の高いWear OSとあわせて「使っていて楽しい」という感覚があります。
こう不満を垂れながらも、実のところPixel Watchを気に入って使っているのです。
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