眼前に並ぶ数多のスマートフォンから、どれか一台を選ぶとする。スペック表をじっくりと眺めるのもいい。特定のモデルに思い入れがなかったら?端末を小さい順に並べて、最も収まりの良い一台を選んでみよう。
そもそも、携帯性と機能性を天秤にかけること自体間違いに思える。技術が許すなら、両方実装すれば良いだけの話なのだ。ASUSの新しいスマートフォン「Zenfone 9」は、コンパクトな筐体に驚くほど高い性能を詰め込むことでこれを実現している。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ASUS Zenfone 9 | ||
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メーカー | ASUS | |
発売日 | 2022年11月(国内) | |
ハード | 質量 | 約169 g |
サイズ | 約146.5×約68.1×約9.1 (mm) | |
ディスプレイ | 5.9インチ AMOLED | |
解像度 | 2400×1080(FHD+) | |
リフレッシュレート | 最大120Hz | |
バッテリー | 4,300mAh | |
充電 | USB PD 3.0/Quick Chatge 4.0 (30W) | |
防水防塵 | IP65/IP68 | |
インターフェース | USB TypeC、オーディオジャック | |
ソフト | OS | Android 12 (ZenUI) |
SoC | Qualcomm Snapdragon 8+ Gen1 | |
RAM | 8GB/16GB | |
ストレージ | 128GB/256GB | |
カメラ | リアカメラ | 50MP(広角)、12MP(超広角) |
フロントカメラ | 12MP(広角) | |
機能 | ネットワーク | 5G(Sub-6)、4GLTE |
SIM | nanoSIM×2 | |
センサー | 指紋認証(電源ボタン) | |
その他 | Bluetooth 5.2 NFC対応 Felica/おサイフケータイ対応 インカメラ顔認証 ワイヤレス充電非対応 |
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カラバリ | ミッドナイトブラック、ムーンライトホワイト、スターリーブルー、サンセットレッド |
コンパクト、なのに高性能
新しいZenfone 9は、「Zenfone 8」と比べてデザインが大きく変わった。「iPhone 12」から復興したフラットエッジの潮流を踏襲しているが 、黒一色のアルミフレームにはディスプレイとの一体感があり、新鮮味を感じさせる。
背面は「Pixel 5」のようなストーン調仕上げで、少しくすんだ上品な色合いに惹かれてしまう。触り心地も上々だ。ガラス製の筐体は指紋がつきやすくすぐ割れるのが欠点だが、Zenfone 9にはそれが無い。デザインを活かすなら、ケースは付けなくて良いと思えるほどだ。
手のひらに収まるコンパクトな筐体サイズは、先代モデルから受け継いだ特徴の一つ。画面サイズはそのままに、ベゼルを削ってさらなる小型化を実現した。さすがに「iPhone 13 mini」には及ばないが、それでも昨今のスマートフォンにはない貴重なサイズ感だ。
横幅は約68.1mmで、端まで親指が届く絶妙な距離といえる。一方で高さは約146.5mmと標準的な仕様になっており、スマートフォンとしては縦長な部類に入るだろう。こう書くと画面の上まで指が届かないのではと思われるが(実際届かないのだが)、iPhoneのように画面の下をスワイプすることで上画面を操作できる「片手モード」があるため、実用上の不満はない。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ディスプレイは5.9インチで、「iPhone 13」とほとんど変わらない。AMOLED(アクティブマトリクス式有機EL)ディスプレイは鮮やかで、解像度も十分に高い。最大120Hzのリフレッシュレートに対応しているが、滑らかすぎるので90Hzに落として使っている。バッテリーの消費も激しい気がする。
「iPhone 13 mini」とのサイズ比較。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
バッテリー容量は4,300mAhに増加し、杞憂せず丸一日使えるようになった。ただし連続で映画をみたり、ゲームをプレイするなら給電が必要になるだろう。さいわいZenfoneにはバッテリーの発熱を抑える「低速充電」機能があるので、ストレスなく”ながら充電”ができる。
少しでも電池持ちを良くしたいなら、「Always-on Panel(常時表示)」機能や120Hzディスプレイをオフにすると良さそうだ。ASUSのゲーミングスマートフォン「ROG Phone 6」と共通のバッテリーケア機能もある。
片手操作を助ける機能
筐体サイズの大型化が進む昨今、小柄なAndroidスマートフォンはそれ自体が貴重な存在といえる。なかでもZenfone 9は、片手使いに着目した便利な機能を多く備えているのが特徴だ。
側面の電源ボタンは指紋認証センサーを兼ねており、一瞬でロックを解除できる。このボタンはタッチセンサーを兼ねているので、押し込みやスワイプなど特定のジェスチャーに応じてショートカットを割り振ることができる(ASUSはこのユニークな仕組みを「ZenTouch」と呼んでいる)。
スマートキー(ZenTouch)は電源ボタンと指紋認証、タッチセンサーを兼ねている。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
たとえば、ボタンを2回押すとカメラが起動するように設定する。指紋認証を有効にしていれば、最初の押し込みでロック解除が完了している。あとは好きなシーンを撮影すれば、そのままライブラリで写真を確認できるのだ。ロック画面から直接カメラを立ち上げるのは他の端末でもできるが、面倒なロック解除を飛ばしてその場で作例をチェックできるのはありがたい。
スマートキー(ZenTouchボタン)に割り振れる操作
・ Googleアシスタントを開く
・ 音声入力を起動
・ カスタマイズ
・ Googleアシスタントの復帰
・ 音声入力
・ カスタマイズ
・ 電源を切る
・ 通知のチェック(通知を開く/閉じる)
・ ウェブページ/アプリケーションの更新
・ ウェブページの先頭/最後に移動
・ メディアの前後移動(音楽、動画等)
・ メディアの再生・一時停止
ZenTouchのスワイプ操作については、メディアの前後移動や再生・停止に加えて、Webページを更新したり通知センターを開いたりと、特定のショートカットを割り振ることができる。
「片手モード」は画面を下にスワイプすることで、表示内容全体を下にずらせる機能だ。特段珍しくはないのだが、Zenfone 9のサイズ感と親和性が高く、好んで使っている。
iOS 14で話題になった「背面ダブルタップ」機能がZenfone 9にも実装された。 本体背面を2回叩くことで、あらかじめ指定したショートカットを実行できる。
・ スクリーンショット
・ カメラを起動
・ 懐中電灯(オン/オフの切り替え)
・ サウンドレコーダー(録音の開始/停止)
・ Googleアシスタントを開く
・ マルチメディア(メディア再生中 : 再生/一時停止)
スクリーンショットを撮ったり、レコーダーの録音を開始(停止)したりと、通常では一手間かかる動作が人差し指ひとつで済むのだから、非常に便利である(ただし、誤動作も多い)。
「Game Genie」はプレイング設定をまとめたダッシュボードで、モバイルゲームをプレイ中に上隅からスワイプすることで呼び出せる。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ASUS独自のソフトウェア「Game Genie(ゲームジニー)」はZenfone 9にも搭載されている。Game Genieはモバイルゲームをプレイ中に呼び出せるダッシュボードで、ゲーム体験の向上に役立つ様々な機能を備えているのが特徴だ。ゲーム中の通知をオフにしたり、ワンタップでスクリーンショットを撮ったり、大事な場面を録画したりといったことができる。
オーディオ面のこだわりも見逃せない。上下に配されたデュアルスピーカーは音量・音質ともに良好で、手に持つと筐体の振動が伝わってくる。音質やイコライザは設定項目の「オーディオウィザード」から調整可能。シーンに応じたプリセットも用意されている。
Zenfone 9は192Hz/24bitまでのハイレゾ音源に対応している。3.5mmオーディオジャックはZenfone 8から復活しており、愛用のイヤホンやヘッドホンで最上級の音楽を味わうことができる。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ハイスペックだがお得感は薄く
Zenfone 9はクアルコムの主力チップ「Snapdragon 8+ Gen1」と本体の冷却機構により、高い性能を実現した。発熱問題は小柄なスマートフォンの宿命であるが、その点Zenfone 9はよく健闘している。通常使用ではほとんど気にならず、ゲーム中は背面がほんのり熱くなるものの、持てないほどではない。これだけのパワーがあれば、動作でストレスを感じるシーンは少ないだろう。
ROG Phone 6、 Zenfone 9 : 実測値。 SOURCE : GEEKBENCH
Zenfone 9には実用的、あるいはそう感じなくとも裏で役立っている機能がいくつかある。たとえばFeliCa・おサイフケータイに対応し、ICカードや電子マネーが問題なく使える。IP65/IP68の高い防水防塵性能も備えている。
画面の端からアプリを呼び出しフローティングで開ける「エッジツール」や、一つのアプリを同時に二つ起動できる「ツインアプリ」はやや玄人向けの機能かもしれない。端末を持ち上げてスリープ解除したり、ひっくり返して着信音をミュートできる機能も地味だが気に入っている。
「エッジツール」機能では、画面の端からアプリを呼び出しフローティングで開くことができる。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ただし、これだけは言わせてほしい。これら便利な機能の大半はデフォルトでオフになっているのだ。どの機能も設定項目の深層から自力で探し出し、有効化するしかない。正直なところ、ほとんどのユーザーはこうした機能の存在にすら気づかないのがオチだろう。
Zenfone 9に”隠された”機能のすべてを使いこなせるのであれば、99,800円(128GB/8GB)という価格は妥当かもしれない。しかし実際はZenfone 8から2万円の値上げであり、円安を考慮してもスペックのためだけに10万円を支払うのは勇気がいる。
物理ジンバルが手ぶれを軽減
背面はメインとなる5000万画素の広角カメラと、1200万画素の超広角カメラからなる。望遠側は最大8倍のデジタルズームに対応しているが、作例として許容できるのは2倍までだろう。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
作例はいずれも発色が控え目で、コントラストが強く出る傾向にあった。特別な補正はかかっていない、まさしく「撮って出し」の印象だ。
Zenfone 9を持って、湯布院(大分県)の紅葉を写してきた。赤々と染まる木々の風景は実に美しかったが、撮影した写真は実物より色がくすんで見えた。
夜景モードは優秀で、ノイズの少なさとディテールの解像度に驚かされる。条件によっては光源が白飛びしたり反射することがあるものの、全体的に美しく幻想的な作例を残すことができた。
光の軌跡を撮影できる「ライトトレイル」モードも面白い。数秒の露光時間で、車のヘッドライトや滝の流れを滑らかな線状に描写できる。
ライトトレイルモードの作例。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
このような写真がボタン一つで撮影できるのは良いことだ。「PROモード」ならより詳細な設定で撮ることもできるが、スマートフォンにそれを求める人は限られるだろう。
Zenfone 9の強みを存分に活かすなら、動画撮影をおすすめしたい。なんとこの端末、メインカメラに6軸のジンバルスタビライザーを搭載しているのだ。これにより、従来の電子式手ぶれ補正と合わせて滑らかな動画が撮影できる。
歩行時と走行時の作例では、安定した映像を撮ることができた。ジンバル単体だと流石に揺れるので、中程度の手ぶれ補正をかけている。個人的には手ぶれ補正特有のゆがみが嫌いなので、ジンバルだけで撮影できたらと願わずにはいられない。
Zenfone 9は最大8K(24fps)の動画撮影に対応しているが、今のところ試していない。少なくとも4K(60fps)の撮影はとても実用的で、画質もかなりいい。撮影中に倍率を自由に変えられるのもありがたい。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
多彩な機能、玄人向けの一台
Zenfone 9は抜群の性能と機能性をコンパクトな筐体に収めた、昨今のAndroidスマートフォンでは稀有な一台。刷新されたデザインも美しく、思わず手に取ってしまう魅力がある。
明確な欠点は、ワイヤレス充電に非対応であること、そしてeSIM・microSDカードが使えないことだろう。これらを許容できて、かつ便利な機能やジンバルカメラを使いこなす気概があるなら、うってつけの一台だ。
ASUSは最大2回のOSアップデートに加えて、専用アクセサリも提供している。保護ケースにはスタンドやカードホルダーを取り付けることができる。スマートスタンドは開閉を磁気センサーで検知し、立てかけると指定したアプリが自動で開く仕組みだ。Zenfone 9を検討しているなら、こちらも併せてチェックしたい。
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