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第6世代 iPad mini(2021)は確かな進化を遂げたが、一台でできることには限りがある : 実機レビュー

iPad miniの評価は難しい。ユーザーの用途によってその価値が大きく変わるからだ。「少し大きいiPhone」とか「少し小さいiPad」などと表現されることがあるが、実際はそのどちらにも該当しない。iPad miniはスマートフォンの代わりにはなり得ないし、11型のタブレットとも使い道が異なるのだ。
iPad mini 5 2019 レビュー

iPad mini 5 (2019)には“8タブ”への期待が止まぬ理由が詰まっている:実機レビュー

iPhoneを少し大きくしたようなサイズ感だが、その体験はiPhoneにもiPadにも似ていない。7.9インチという画面サイズがあって初めて成立する、「iPad mini」ならではの魅力がそこにある。  記事をみる

第5世代のiPad miniは性能からして優秀な端末であったのは間違いないが、クラシックなiPadを踏襲したデザインが仇となり、界隈で話題の中心になることはなかった——少なくとも今の第6世代よりは。

しかし世代は変わっても、この端末のアイデンティティは決してブレない。最もポピュラーなiPadやiPad Airを選ばず、あえてminiを選択する人がいるからだ。

こんな人に勧めたい

正直言って、iPad miniを普通のタブレットとして使うのは難しい。画面サイズが7.9インチから8.3インチに大型化したとはいえ、Apple Pencilを使う大半の作業やマルチタスクにはどこか無理がある。

それでも、このサイズ感が一際輝く瞬間がある。たとえば電車の中で漫画や小説を読むとき。情報量を割り切ったデジタルペーパーと違って、ありのままのコンテンツを楽しむことができる。

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
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左:iPad mini(第6世代)、右:iPad mini(第5世代)。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
左:iPad mini(第6世代)、右:iPad mini(第5世代)。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

iPad miniを好んで使う人の多くは、モレスキンやノルティを代替するデジタル手帳としての魅力をあげる。これはハードそのものというより、iOSプラットフォームに揃う高品質なApp群を根拠とすべきかもしれない。

既にiPad ProやAirを持っているなら、サブ機としてiPad miniを導入するのも良さそうだ。iPad OSの画面分割を極めるより、2台で2つのアプリを開いた方がはるかに単純なこともある。

ところが、こうした利点がすべての人に当てはまるとは言えない。もしあなたが初めてのiPadを探しているのなら、この端末を選択すべきではないだろう。なぜなら殆どの人にとって納得いく性能を備えた(しかも画面も大きい)iPadが、「mini」より2万円安く手に入るからだ。

サイズは小さく、画面は大きく

新しいiPad miniの価格は、64GBのベースモデルが59,800円から、256GBのモデルが77,800円からと、大きく値上がりした。筐体サイズは旧モデルからわずかに小さくなる一方で、画面サイズは大型化している。

縦に表示領域が伸びたことで、ブラウジングが快適になった。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

表示領域の拡大により、YouTube等のコンテンツ視聴やブラウジングの快適性が向上した。ただし画面比率が特殊なこともあり、一部のAppで全画面表示ができない等の不具合はある。

ディスプレイはトレンドの有機ELではなく、従来のIPS液晶だ。リフレッシュレートも60Hzになっている。ProMotionテクノロジーとApple Pencilが織りなす極上の書き心地を知る人は、筆記の遅延に苛立ちを覚えてしまうかもしれない。しかしそんな違和感を抱くユーザーは極めて少数だ。少なくともこれが初めてのスタイラス体験なら、気にすることはないだろう。

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予定されたスペックアップ

iPad miniがApple Pencil 2に対応し、ProやAirのようなナローベゼルを備えることは、かなり前から予想されていた。18年に発売されたiPad Pro、あるいはその後の新型iPad Airを通じて、新しいタブレット体験にユーザーが慣れてきた頃だ。受け入れのハードルは以前より大分下がっている。

Touch iDは「Air」同様、電源ボタンに組み込まれた。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
性能が向上したカメラは、しかしながらフラットな背面を乱す存在でもある。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

サプライズをあげるとするなら、センターフレーム機能を備えた新しいインカメラだろう。駆動部が対象の顔を自動で追従し、適切な画角に収めてくれる便利な機能だ。Touch IDは上面の電源ボタンに組み込まれ、「Air」と仕様が共通化された。

内部コンポーネントでは4GBのメモリに比して、最新のA15 Bionicが際立って見えるだろう。A14 Bionicを搭載するiPad Airとは僅かな差だが、第5世代のiPad miniに比べれば大幅なスペックアップと言える。

一台でできることは多くない

iPad miniは第6世代にしてついにイヤホンジャックとLightningを失い、代わりにUSB-Cポートを手に入れた。だが、過度な期待を抱くのは禁物である。iPad miniを外部ディスプレイに接続すると、画面は1:1.52という特殊なアスペクト比のまま、中央にミラーリングされる。一部のアプリを除いて作業領域の拡張には対応せず、実情はほとんど使い物にならない。

第6世代にしてようやく、USB-Cに対応した。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

USB-Cがもたらす拡張性を高らかに主張するのも良いが、ことアップルにおいてその恩恵はひどく制限されることに留意すべきだ。ユーザーにはiPadとMacを両方購入し、互いの短所を補ってもらうことをアップルは望んでいる。iPad一台で全てをこなせる環境はきっと想定にないし、用意するつもりもないのだ。

同時にリリースされた「iPadOS 15」は、そうした傾向を裏付けている。アプリやWebサイトに紐付け可能なクイックメモが追加されたり、マルチタスクに欠かせないSplitViewの機能が強化されたりした。注目は「ユニバーサルコントロール」という、MacとiPadの連携機能だ。MacとiPadを並べて置くと、2台のデバイス間でカーソルやファイルを自在に行き来できるようになる(事前設定は要らないのが肝)。

「WWDC 2021」のデモでは、Procreateで描いたイラストをiMacで開いたAppにドラッグすることで移動していた。アップルが期待しているのは、まさしくそういう使い方だろう。

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要するに、iPad miniが他のデバイスに取って代わることは決してないのである。iPhoneにもなり得ないし、Macにもなり得ない。はたまた、iPadやiPad Airともベクトルを異にする。

逆に言えば、これらのデバイスと共に使うのであれば、その効果は相乗して大きくなる。iPadOSはmacOSと組み合わせてはじめて、「使う」から「作る」ためのプラットフォームに昇華されるのだ。

あとは、8.3インチというタブレットにしては中途半端なサイズにどこまで価値を見出せるかだろう。既にiPad miniを愛用していて、もっと強力なパワーや快適なライティング環境を求めているなら、新しい第6世代を購入してみてほしい。逆に、今の時点でその大きさを活かせる用途が思い浮かんでいないのであれば、大人しく他のiPadに目を向けるべきである。