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Review

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー

見てくれは一緒でも、中身は大きく変わりました。新しいiPadOS 14と強力なA12 Bionicプロセッサが、iPadを単なるエントリーデバイスからまさしく「魔法の板」へと変身させます。34,800円という価格設定に教育改革の気概を感じる一方、新型iPad Airとの棲み分けはやや曖昧で、選ぶ側からすれば難しい選択を迫られるでしょう。—— 第8世代iPad(2020)の実機レビュー。
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九条ハル

3万円で手に入る最高のタブレット! 第8世代iPadの実機を手に入れたぞ!

近年アップルは教育分野にiPadを売り込んでるみたいだけど、 その狙いは何なのかしら?

メロ

教育分野へのアプローチ

現行iPadの全ラインナップの中で、 とりわけ無印iPadが担ってきた使命の一つに 「教育現場の改革」 が挙げられます。

アップルの登壇者達は今回のプレゼンで、 iPadが一般的なエントリーモデルのWindows PC、 Androidタブレット、 Chromebookの2〜6倍に及ぶ性能を有していることを強調していました。

その背景にあるのは 「安価かつ必要十分な性能」 が教育現場への導入あるいは家庭学習に必要不可欠であり、 iPadこそその条件に最も相応しい端末であるというセオリー。 アップルが推し進める新たな教育構想の一端でもあります。

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

事実、 今年度第3四半期(Q3)の決算でiPadの売上高は昨年から約31%増加しました。 新型コロナウイルスの感染拡大に伴いオンライン学習の機会が増えており、 学習向け端末の需要は全世界で高まるばかりです。

しかしながら、 国内外の教育現場において現在最も存在感を放っているのはグーグルであり、 1万円台から手に入るChromebookや学生・教師間のスムーズな連携を可能にするWebサービス 「Google Classroom」 が提供する圧倒的な利便性に対してiPadが遅れをとっているのも事実でした。

そんな現状を変えるための一手としてアップルが投じるのは、 App Storeに擁立した魅力的なアプリ群、 そしてそれらがまともに動くだけのスペックを備えた端末 —— 新しい第8世代iPad、 そのものです。

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組み合わせ次第であらゆる用途に使える

小中高等学校向けのB to Bビジネスで苦戦する一方、 年代を問わず幅広い層が使うパーソナルな端末としてみれば、 無印iPadは有力な候補です。

iPadを導入したら、 貴方の生活はどう変わるのでしょうか。 iPadにはスタイラスペン、 キーボード、 トラックパッド、 カースタンドから固定用アームに至るまで多様な周辺機器が揃っています。 組み合わせ次第で実質どんなこともできてしまうのです。

iPad 8 2020 レビュー

スタイラスと組み合わせれば電子手帳・電子ノートにもなる。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

スタイラスペンを使えば、 手書きのメモやノートをiPad上で管理することができます。 アイデア出しやブレインストーミング、 とにかく思考を整理する際にハンドライティングは欠かせません。

さらに書いたものはiPadが手元にある限りいつでもどこでも参照できて、 クラウド経由で他のデバイスとデータを共有することもできます。 アナログとデジタルそれぞれの強みを味わえる組み合わせ、 まさにiPadの醍醐味です。

iPad対応のスタイラスには、 純正のApple Pencilとロジクール 「Crayon」 のようなサードパーティー製のものがあります。 後者はより安く入手できる一方ライティングには十分な描画性能を備えているので、 エントリーモデルの第8世代iPadにとって最高の相棒になるでしょう。

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Apple(アップル)
再入荷待ち
iPad 8 2020 レビュー

キーボード・マウスと組み合わせてノートPCの代替に。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

キーボードと組み合わせれば、 閲覧専用のタブレットがたちまち生産性重視のデバイスへと進化します。

純正のSmart Keyboardやロジクール 「Combo Touch」 などのキーボードはiPad側面のSmart Connectorを介して本体から直接バッテリー供給を受けるので、 ペアリングや充電をすることなく使えるのが魅力です。

さらにiPad OSのアップデートでマウス・トラックパッドの正式サポートも実現し、 一般的なノートPCに比べて遜色ない使い方ができるようになりました。

iPad 8 2020 レビュー

素で使えばタブレットにも、 スタンドと組み合わせればディスプレイにもなれる

スタンドでiPadを固定すれば、 デスク脇のマルチディスプレイに早変わり。 タッチ操作ができて、 Siriで音声操作だってできます。

メインディスプレイの隣に置いて、 カレンダーを常時表示させたり、 Apple MusicやYouTubeから好きな音楽を流したり(2スピーカーなので音質には目をつむって)、 あるいは 「SideCar」 を使ってMacのサブディスプレイとして活用したり…3万円台で手に入るからこそ実現できる、 贅沢な使い方です。

もちろん、 アクセサリは使わずに純粋にタブレットとして使うのも良いでしょう。 本体の適度な重さ(Wi-Fiモデル:490g)が幸いして、 片手持ちかつ10.2インチの大画面でPrime VideoやYouTubeを楽しんだり、 電子書籍に読み耽ることができます。

価格が魅力だが、 128GBモデルはAirとの棲み分けに懸念

こうした体験はしかしながら、 必ずしもiPad上で最高のパフォーマンスを得られるとは限りません。 例えば電子書籍を読むなら 「Fire HD」 のように特化したリーダーがあるし、 ノートPCとして使うなら専用のデスクトップアプリを備えたラップトップが山ほど存在します。

それでもiPadに価値を見出す理由は、 僅か34,800円からの投資で、 これだけ自由な使い方ができるデバイスは他にないからです。

アプリ・アクセサリ次第でどんなことだってできてしまう可能性。 当然、 上位機種のiPad AirやProと比べて性能面で劣る分できることに制限はありますが、 日常にパラダイムシフトを起こしうる契機が3万円で手に入るのなら、 案外お得な買い物かもしれません。

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー
第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー
第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー
第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー
第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー
モデル iPad Pro iPad Air iPad iPad mini
サイズ 12.9′ 11′ 10.9′ 10.2′ 7.9′
32GB 34,800円
64GB 62,800円 45,800円
128GB 104,800円 84,800円 44,800円
256GB 115,800円 95,800円 79,800円 62,800円
512GB 137,800円 117,800円
1TB 159,800円 139,800円
価格は執筆時点。 Wi-Fi+Cellularモデル:iPad Proは上の価格に+17,000円、 その他の機種は上の価格に+15,000円

その価格は第7世代から据え置きで、 32GBが34,800円、 128GBが44,800円(いずれもWi-Fiモデル)という構成、 依然最も安く手に入るiPadです。 後述するA12 Bionicや美しいRetinaディスプレイを鑑みれば、 同価格帯のタブレットと比較してもかなり性能が高くコストパフォーマンスに優れたモデルと言えるでしょう。

一方で32GBという容量設定はやや古典的で、 現代のニーズから外れている感が否めません。 これまでの経験上、 64GB未満だと元々プリセットが占める容量に加えてアプリやPDFファイル等を少し追加するだけでストレージが一杯になってしまいます

ましてや32GBではデータの保存などろくに行えないどころか、 動画のオフライン視聴も到底叶いません(クラウドサービスの活用が期待できないのは既に述べた通り)。

そうすると128GBが現実的な選択肢になってきますが、 こちらは最新のiPad Air(64GB)に価格差で18,000円に迫るため、 どちらを選ぶべきかは予算と相談して決めねばなりません。 あるいはPCのサブ機として割り切った使い方をするのであれば、 32GBも順当な選択の一つです。

性能と特徴

iPad 8 2020 レビュー

PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

A12 Bionicが高度な編集作業を実現

第7世代から大きく変わった点として特筆すべきは、 プロセッサの核がiPhone XSやiPad miniと同等の 「A12 Bionic」 にアップデートされたことです。

A12はiPhone XS/XS Maxや最新の第5世代iPad miniに積まれているものと同等で、 A10 Fusionを搭載していた前モデルと比べCPU性能が40%、 グラフィック性能が約2倍に向上しています。

その差はいくつかのアプリで実感することができます。 ゲームに強くなったのはiPad miniのレビュー記事で述べた通り

ほかにも、 第7世代iPadでは操作にやや難があった 「Affinity Designer」 はパスの変形やカラーの変更などでラグが軽減され、 実用に耐えるレベルでスムーズに動作するようになっています。

「Procreate」 ではラフなどで素早く線を引いた時の遅延が少なくなっていることに気づきました(とはいえ、 ディスプレイ性能やApple Pencilによる制限もあり完全に遅延なしとはいきません)。

iPad 8 2020 レビュー

「Affinity Designer」 「Procreate」 「Lightroom」 がサクサク動く。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

「Lightroom」 では写真の調整が瞬時に反映されるようになっており、 特にRAW現像となればPC版の 「Camera Raw」 や 「Luminar 4」 にも勝る快適さを見せてくれます。

いずれのアプリも立ち上げ時間が短縮されているようで、 第7世代と比べると機敏に動作するA12 Bionicの実力がよくわかるはずです。

ただし、 現状でiPadの性能に不満がないのであれば、 あえて買い換える理由にはならないと思います。 軽量なアプリの多くは動きに殆ど差を感じないですし、 性能を重視するのなら最新のA14 Bionicを積んだiPad Airがあります。

第6世代iPadや第3世代iPad Airユーザーで性能に限界を感じているのであれば、 この新しいiPadを試してみる価値がありそうです。

Apple Pencilとの相性が良くない

iPad Air・Proと比較して最も大きな違いの一つがディスプレイ性能です。 第8世代iPadは液晶面と保護パネルを一体化する 「フルラミネーションディスプレイ」 を搭載しないため、 実際の画面がディスプレイパネルより奥まった位置に見えます。

iPad mini 5 2019 レビュー

無印iPadでは液晶とパネルの間に空気層がある。 IMAGE BY KUJO HARU

液晶画面と表面パネルの隙間に空気層があるため、 光が乱反射して画面が白っぽくなるのが欠点です。 晴れた日に外で使ったりすると、 Air・Proに比べて画面が見にくく感じられるでしょう。

iPad 8 2020 レビュー

第8世代iPad(フィルム無し)
iPad 8 2020 レビュー

iPad Pro(2020)+樹脂フィルム

iPad Proの方には樹脂フィルムを付けていますが、 同じ光条件でも反射具合に大きな差があることがわかります。 また、 フルラミネーションディスプレイを採用するiPad Air・Proでは空気層ない分実際に画面に触れている感覚を味わいやすいという利点もあります。

とりわけ、 ディスプレイ性能の違いが顕著に現れるのはApple Pencilの描き心地です。 実際に比べてみましょう。

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー

通常のディスプレイ(無印iPad)

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー

フルラミネーションディスプレイ(Air・Pro)

液晶と保護パネルに隙間がある分、 無印iPadの方ではペン先が浮いたような感じになるのです。 これにより描き心地が損なわれるのはもちろん、 正確性が重視されるイラスト制作では致命的なストレスを生んでしまいます。

簡単なメモ書きやライティングをこなすには十分な性能ですが、 本格的なドローイングでiPadを使うなら素直にiPad AirやProを選ぶのがお勧めです。

iPad 8 2020 レビュー

ディスプレイ性能の差が描き心地に大きく影響する。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

優れたバッテリー性能

バッテリー持ちは同価格帯のタブレットやノートPCと比較してもかなり良い方です。 連続駆動時間は公称値で10時間(Wi-Fi使用時)ですが、 四六時中iPadを触っている訳ではないので、 実際は1日フルに使えてしまうことが殆どです。

今モデルからは新たにUSB-C to Lightningの充電ケーブルと電源アダプタが同梱され、 最大20Wの急速充電ができるようになりました。 ところが端子は依然Lightningのままで、 ユニバーサル規格のUSB-Cに比べれば他デバイス、 ケーブルとの相性に難があるのは否めません。

iPad 8 2020 レビュー

新たに20Wの電源アダプタとC to Lightningケーブルが付属

カメラで撮影した写真をiPadに取り込んで編集したい、 あるいはUSBメモリ等でデータのやり取りを行いたいという場合も、 Type-Cポートを搭載するiPad Air・Proが有利に働くでしょう。 対応するカメラであればType-CケーブルでiPadと接続するだけで直接写真を取り込めるので、 SDカードを介したやり取りより速くて便利。

USBメモリをみても、 Lightning端子に対応するものはType-Cのそれほど充実していません。 ただし両者とも変換ハブやアダプタがサードパーティーから出ているため、 アクセサリ次第で拡張性を高めることができます。

背面カメラは据え置き

第8世代iPadのリアカメラは800万画素のイメージセンサーとF/2.4のレンズを備えています。 最新のiPad AirやProと異なりカメラ部が背面に飛び出ていないので、 平置きしてもガタつかずに使えるのが良いところです。

カメラのスペックそのものは前代から変わっておらず、 画質は1200万画素の広角カメラを備えるiPad Air・Proに劣ります。

ただしプロセッサの更新により画像処理性能が向上しているため、 旧世代のiPadと比べてより精細な写真が撮れるはずです。

iPad 8 2020 レビュー

第8世代iPadのリアカメラ
iPad 8 2020 レビュー

第8世代iPad(左)とiPad Pro 2020年モデル(右)。 iPad Proの方がやや薄くて軽いが、 リアカメラの出っ張りが気になってしまう

iPadでカメラを使うとなれば、 出先で風景を撮影するというよりむしろ室内で板書や資料、 ノートを撮影する機会の方が圧倒的に多くなります。

室内は光量が少なくノイジーな写真になりがちですから、 記録用とはいえ綺麗に撮影したいのであれば画素数の多いiPad Air・Proを選ぶのも選択肢の一つです。

しかしながら、 どのモデルを選んでも撮れる画質に大きな差はないと考えて良いでしょう。 スマートHDRやLiDARスキャナは革新的ですが、 未だその恩恵を受けられる場面は多くありません。

第1世代Apple Pencil

iPad 8 2020 レビュー

第1世代Apple PencilはLightning経由で都度充電する必要がある。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU

スタイラスはiPadのクリエイティビティを何倍にも高めてくれるツールです。

第8世代iPadが対応する純正のApple Pencil(第1世代)は10,800円と高価ですが、 傾き検知と圧力検知に加え遅延が極限まで抑えられているので、 快適な描き心地を楽しむことができます。

ただし前述の通りディスプレイ性能に制約があるため、 第8世代iPadではApple Pencilの実力を最大限に引き出せない恐れがあります。

ロジクール 「Crayon」 をはじめサードパーティーから出ている複数のスタイラスは第8世代iPadに対応しており、 純正品より安価に入手できるのでお勧めです。

一方で、 最新のiPad AirやProが対応する第2世代Apple PencilはiPadで使うことができません。 同じApple Pencilでも第1世代と第2世代では性能・使い勝手に大きな差があるので、 ライティングやドローイングの機会が多い人はiPad Air以上のグレードを選択するのが無難と思われます。

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Apple(アップル)
再入荷待ち

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初めてのiPadはこの子で決まり

進化したiPadOSとA12 Bionicのおかげで、 上位機種にあたるiPad Air・Proとの性能的な差はほとんど無くなりました。 それはすなわち、 3万円台でiPadに出来るおおよそ全てのことを体験できるという魅力、 まさしく万人にお勧めできるエントリーデバイスに仕上がった第8世代iPadの真価なのです。

既に第6・7世代iPadを使っている人が、 あえて乗り換える必要はありません。 進化したのはプロセッサーと充電性能くらいで、 それ以外のほぼ全ては共通しているからです。

ですが、 これからiPadの購入を考えている人はまず第一にこのモデルを検討すべきだと思います。 34,800円から手に入る32GBモデルは魅力的ですが、 タブレットとして本格的に運用するのであれば少し投資して128GBを購入するのが賢明でしょう。

第8世代 iPad (2020) はコスパの良いエントリーモデル : 実機レビュー

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一歩引いた目線に立ってみれば、 教育市場におけるiPadの存在感は弱まっており、 Chromebookに価格で及ばない今、 その性能とiPadOSにより自身をどれだけ差別化できるかが注目されます。

第7世代iPadは前機から1万円以上もプライスダウンされ、 アップルの教育改革に対する気概を強く感じるプロダクトでした。

第8世代は価格こそ据え置きですが、 今後アップルが教育分野におけるシェア再拡大を狙うのであれば、 次世代機はさらに安く購入できるようになるかもしれません。