AirPodsで満足していた
元々、ボクは第2世代のAirPodsを好んで使ってきた。オープンイヤー型だが音質は特別ひどい訳でもなく、正直にいってしまえばポケットに入る小柄なケースとワイヤレス充電、そしてiOSデバイスとのペアリングが非常に楽である、といった機能面の方が購入理由としては大きかった。
実際、近場の外出ではAirPods一つで事足りてしまう場面も多く、それまで使っていた(3万円近くする)JVCの有線イヤホンを手放すのに時間は掛からなかった。それからは旅行など遠出の機会を除いてほとんどAirPods単体で行動するようになる。
だから噂されていたAirPods Proが正式に発表された時も、注目こそすれど「喉が手が出るほど」欲しいと感じるには至らなかったのだ。「正直、いまのAirPodsで十分かな」と感じていたところはある。
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
都会の喧騒に揉まれて
問題が起きたのは、新型コロナウイルスの騒動が始まってしばらくしてから、緊急事態宣言が解除された後久しぶりに外出した際のことだ。リモートで、静かな屋内での作業に慣れていたからか、周囲の環境音が非常に大きく感じられたのである。音楽を聞いている間、以前はさほど気にならなかった周りの人やビルが、轟音をたててボクの音楽体験を邪魔するようになった。
その時初めて、オープンイヤー型のAirPodsではダメだと実感した。訂正すると、別にAirPodsの評価が悪くなったとか、嫌いになったという事ではない。今でも室内ではAirPods、屋外ではAirPods Pro、といった風に使い分けている。
ただ、ノイズキャンセリング×ワイヤレスイヤホンという組合せがどれほど重要かということに気づかされたのである。音質を限りなく追い求めるなら、完全ワイヤレスイヤホン(TWS)は有線のそれに劣る。そうだとしても、TWSの魅力を知ってしまったボクに後者を選ぶ気概はもうなかった。
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ノイズキャンセリングの実力
その恩恵を受ける代わりに、元々たいして多くないバッテリー駆動時間は倍喰われるようになったし、機構もAirPodsより複雑になった。それでもTWSにノイズキャンセリングを搭載するメリットは余りあると思っている。
常にON、常にOFFではなく、外部環境や気分に合わせて外音を自由にコントロールできるのが何よりの強みだ。最近では、集中したいときにノイキャンをONにして気持ちを切り替える「スイッチ」的な役割を担ってもらう。
適度な緊張が必要とはいえ、ボクにとって過度な騒音は集中を妨げる要因でしかない。外音をシャットダウンするというのは一種の非日常的体験に違いないが、静寂な空間がもたらす安心感は、ボクの脳に考えをまとめるだけの余裕を作ってくれる。

密閉度と装着感の両立を意識したが故の特徴的なフォルム。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
さて、一口にノイキャンといってもメーカー毎に味付けが異なるのは興味深い点である。AirPods Proのそれは、不快感のない密閉度を保ちながら余計な音を違和感なく排除するものであり、不思議な感覚ではあるが非常に心地良い。ソニーのWF-1000MX3で気になっていた風切り音や、外音取り込み時の不快感が少ないのも個人的には推したいところだ。
AirPods Proにおいては外音取り込みモードもまた特徴的であり、イヤホンを介しているとは思わせない程外音がクリアに聞こえる感覚は癖になる体験といえよう。実際は微小のノイズが背景に流れているのだが、少なくとも移動中は装着したままでも構わないと思わせてくれる不快感の少なさはボクにとって音質を凌ぐメリットなのだ。
AndroidやWindowsデバイスに合うイヤホンはどれか —— そう聞かれてしまえば、AirPods Proを最良の選択肢として推すのは難しい。Galaxy BudsやPixel BudsがAndroidに最適化されているように、AirPods ProもまたiOSに合わせて作られたデバイスであり、その他との相性が必ずしも良いとは言えないからだ。
裏を返せば、iPhone、iPad、MacとAppleのエコシステムにどっぷり使っているボクのようなユーザーにとって、AirPods系統を使うメリットは限りなく大きい。
使っている方ならご存知の通り、OSレベルのシームレスな連携によってデバイス間のペアリング変更や新規ペアリングがボタン一つで簡単にできてしまう。
これらはAirPods時代からの強みであったが、AirPods Proでは音量調節やノイキャンのON/OFFを含めてiPhoneのコントロールパネルから即座に制御できるのが嬉しい。
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ライト層に開かれたデバイス
テックメーカーの作るイヤホンだからこそ、と言えるかもしれない。クセはないし、高音・低音に突出した解像度がある訳でもなく、限りなく平坦な音と表現するのが相応しい。
音の広がりも決して十分とは言えない。純粋に音質だけでみるなら、このイヤホンに3万円を払うだけの価値を見出すのは難しい。オープンイヤー型とカナル型の構造的な違いもあって体感的な音質は無印のAirPodsより高いが、それでも音にこだわりのあるユーザーはそのサウンドに物足りなさを感じるかもしれない。
幸いなことに、AirPodsで満足できない人にAppleはBeatsというもう一つの選択肢を用意している。ボクの場合は以前のBeatsを象徴する重音増しの音づくりが好みだったというのもあり(今のBeatsは前ほど尖っていない)、結果として機能性に勝っていたAirPods Proを手にとる事となる。

AirPods Proは他のイヤホンと異なる性格を有している。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
考えてみれば、AirPods Proの立ち位置は他のイヤホンと一線を画していた。Appleがオーディオ専門のブランドではなく、かつ(Beatsではなく)テックとしてこのデバイスを出したことにその意味がある。
音質至上主義のオーディオ市場が見落としてきたライトなユーザー層にスポットをあて、音楽体験をよりカジュアルな領域に落とし込んだのはAirPodsの功績であり、「iPod」から一貫したAppleの音楽市場に対するスタンスの現れでもある。
現在では様々なテックメーカーが自社のワイヤレスイヤホンを作っている訳だが、垂直型のビジネスモデル、言い換えればAppleが全てを手掛ける箱庭=エコシステムが「iOSデバイスとのシームレスな連携」という強力なメリットをAirPods(とBeats製品)に付しているのもまた事実であり、他社には容易に真似し難いアドバンテージとして今後も存在感を発揮していくのだろう。
結局のところボクがAirPods Pro(とAirPods)を好んで使うのは、そんな彼らの独特な立ち位置と魅力に惹かれたからに違いない —— 益体もない話をしながら、本質の部分ではこのように感じているのである。