スマートフォンを充電する際、 接続ケーブルをACケーブルやモバイルバッテリーなどに接続するのが一般的でしたが、 近年は本体にケーブルを接続せずに充電できる 「Qi(チー)」 という規格が人気を集めています。
本記事では、 Qiの仕組みや使用するメリット、 さらにQi製品の種類や最新規格の 「Qi2」 について詳しく紹介しましょう。
ワイヤレス充電とは?
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ワイヤレス充電とは、 スマートフォンなどの端末をケーブルに接続することなく充電できる技術のこと。 ワイヤレス充電を利用するには対応する充電器と端末が必要で、 端末側ではiPhoneやAndroidの一部モデルで採用されています。
ワイヤレス充電が注目を集める主な理由は、 充電するたびにケーブル端子をスマートフォンに接続する手間が省けるだけでなく、 充電器の上にスマートフォンを置くだけで充電できるという手軽さにあります。
最近発売されたスマートフォンの多くはワイヤレス充電機能を搭載しており、 この潮流に沿って、 さまざまなワイヤレス充電器が市場に登場しています。
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ワイヤレス充電規格 「Qi」 とは?
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世界的に普及が進んでいるワイヤレス充電には、 メーカーをまたいで使える 「
Qiの名称は、 中国語で自然のエネルギーや見えない力を表す 「気」 の読みに由来します。 最近はスマートフォンに限らず、 イヤホンの充電ケース、 スマートウォッチなど様々なQi対応製品が登場しており、 より幅広い電化製品の充電スタイルとして定着することが期待されます。
Qi誕生の背景
ワイヤレス充電の仕組み自体はQi規格の発足以前から存在します。 なかでもファラデーの電磁誘導の法則に基づく 「電磁誘導方式」 は、 シェーバーやコードレスフォン(PHS)など様々なデバイスに採用されてきました。
そんななか、 メーカー毎に乱立していた充電規格の統一を図る目的で2008年に誕生したのがQi規格です。 2010年には最大5W出力のVer 1.0が策定されました。
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AQUOS PHONE f SH-13C。 IMAGE BY DOCOMO
ちなみに、 国内初のQi対応スマートフォンは2011年に発売されたシャープの 「AQUOS PHONE f SH-13C」 (NTTドコモ)。 リリース当時はワイヤレス充電の知名度がまだまだ低く、 対応機種もAndroidに限られていたため、 目立った存在ではありませんでした。
ところが、 アップルがQi充電に対応する 「iPhone 8」 や 「AirPods」 をリリースしたことにより、 一気にワイヤレス充電ブームが加速していったのです。
Qiの仕組み
Qi規格に対応する充電器には送電用のコイル、 スマートフォンなど端末側には受電用のコイルが組み込まれています。 Qiはこれらのコイルを活用した電磁誘導方式で電気を発生させています。
Qiの仕組みはファラデーの電磁誘導の法則に基づいており、 送電用コイルに電気を流すと磁界が発生し、 受電用のコイルを磁界に近づけることで生じる誘導起電力を給電に利用しています。
遠距離給電を想定したレーザー方式や超音波方式に対して、 Qiは 「非放射型」 の電磁誘導方式を採用することで、 近距離での効率的な給電を可能にしました。
一方で、 2つのコイルが近づくだけ生じる電力も大きくなるため、 それだけ端末と充電器の正確な位置合わせが必要になります。 充電器に置いていたのにほとんど充電できていなかった…といったトラブルはQi充電器につきものです。
位置ズレの問題については、 アップルがiPhone向けに開発した 「MagSafe」 が一つの解決策と言えます。 MagSafeは磁石を利用して端末と充電器を最適な位置で接着させるテクノロジーです。
アップルはこの技術をWPCに提供し、 次世代規格の 「Qi2」 に組み込まれることになりました(後述のMagnetic Power Profile)。 これにより充電時のエネルギーロスや、 生じる熱によるバッテリーダメージの軽減が期待されます。
Qi規格を選ぶメリット
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- ケーブル接続の手間が省ける
- 過充電防止機能
- 異物検出機能
- 過熱防止機能
従来のケーブルを介した充電ではなくQi規格を選ぶメリットとして、 上記が挙げられます。
ケーブル接続の手間が省ける
Qi充電器を活用すれば、 充電する際にケーブルを接続する手間を省くことができます。 端末側の接続端子に関係なく充電が可能で、 Qi対応の機種であれば1つの充電器を使いまわせるのがメリットです。
複数台同時に充電できる充電器もリリースされているため、 スマートフォンやワイヤレスイヤホンなど、 複数のデバイスを使っている場合は得られる恩恵も大きくなるでしょう。
過充電防止機能
過充電防止機能は、 デバイスが必要以上に充電されるのを防ぎ、 内蔵バッテリーを保護するための機能です。 Qi対応製品にはこの機能が備わっているため、 デバイス(バッテリー寿命)を保護しながら安心してワイヤレス充電を利用することができます。
異物検出機能/過熱防止機能
異物検出(Foreign Object Detection, FOD)は、 金属物体などの異物が充電器に置かれた場合に電力の伝送を止めることで、 過熱や感電、 火災などのリスクを防止する機能のことです。 Qi規格を満たす製品は異物検出機能を備えているため、 安全にワイヤレス充電を利用できるメリットがあります。
また、 Qi規格には充電中にデバイスや充電パッドが過熱しないようにするための安全措置(過熱防止機能)も定められています。 これらは特に高出力の充電において安全性を担保するために欠かせない機能です。
Qiのパワープロファイル
BPP | EPP | PPDE | |
---|---|---|---|
最大出力 | 5W | 15W | メーカー毎に異なる |
備考 | Qi公開初期から存在する基本的なプロファイル Ver 1.0〜 |
最大15Wの急速充電に対応したプロファイル Ver 1.2〜 |
各メーカーに電力供給量を委ねる拡張プロファイル |
パワープロファイルとは、 ワイヤレス充電規格において、 充電器とデバイス間で使用される特定の電力転送の構成や規格のことです。 こちらでは、 Qiで採用されているパワープロファイルの特徴を紹介します。
BPP (Baseline Power Profile) : 5W
「BPP(Baseline Power Profile)」 とは、 Qiのベーシックなパワープロファイルで、 電力供給量は最大5Wです。
BPPは、 Qiの公開初期から存在するパワープロファイルです。 Qiに対応する充電器やスマートフォンでは、 最低でも5Wのワイヤレス充電が保証されていることになります。
EPP (Extended Power Profile) : 15W
「EPP(Extended Power Profile)」 はQi Ver.1.2で追加されたパワープロファイルで、 最大15W出力の急速充電に対応しているのが特徴です。
ただし、 最大出力の恩恵を得るには端末側・充電器側ともにEPPに対応していることが条件になります。 また、 15W以上の出力を備えたACアダプタも必要になるため注意が必要です。
PPDE (Proprietary Power Delivery Extension)
「PPDE(Proprietary Power Delivery Extension)」 は各メーカーが独自に電力供給量を定めることができる拡張プロファイル。 メーカー独自規格のため、 BPPやEPPよりも高い出力を実現することができます。
サムスンの 「Galaxy」 やアップルの 「iPhone」 、 グーグルの 「Pixel」 など、 主要端末の一部がこのPPDEを採用しています。
PPDEの恩恵を受けるには、 同規格に対応したワイヤレス充電器が必要です。 たとえば、 Qi対応のiPhoneはアップルの独自規格により最大7.5Wのワイヤレス充電が可能※1ですが、 パワープロファイルは最大5WのBasic Power Profileしか対応していません。
そのため、 7.5Wでの給電が可能なのはアップル純正品など独自規格に対応する充電器のみで、 それ以外の充電器では最大5Wまででしか充電できないことになるのです。 PPDEを最大限に活用したいのであれば、 各メーカー純正の充電器を選ぶのが無難かもしれません。
- MagSafe規格は最大15Wの給電に対応。 また、 iPhone 15からQi2に対応予定
Qi2のプロファイル
WPCのメンバーであるアップルから提供を受けた充電規格 「MagSafe」 をベースにしており、 充電する位置がシビアという従来のQiが抱えていた課題の改善を謳っています。
Qi2では、 MagSafeに基づく 「Magnetic Power Profile (MPP)」 と既存の 「Extended Power Profile (EPP))」 、 2種類のパワープロファイルを採用しています。
Qi2が普及すれば、 AndroidやほかのデバイスでもMagSafe対応アクセサリが利用可能になります。 現在でもMagSafeと互換性を持たせた製品はありますが、 公式に対応することで使える製品の幅が広がるのは大きなメリットです。
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Qi製品の種類
- パッドタイプ
- スタンドタイプ
- マウントタイプ
- モバイルバッテリータイプ
- 非接触タイプ
Qiがリリースされた当初はパッドタイプが主流でしたが、 最近ではさまざまなタイプの製品がリリースされています。
パッドタイプ
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パッドタイプのワイヤレス充電器は、 スマホの背面を下にして置くスタンダードなタイプで、 置くだけで手軽に充電できるのが特徴です。
パッドの上に置くだけで充電できる手軽さと、 設置した際にコイルの位置が合わないというリスクを回避しやすいのが魅力。 1つのパッドで2台同時に充電できるモデルも存在します。
パッドタイプは端末をどこに置いても充電できる反面、 ほかの製品に比べて給電効率は劣ります。 対策として、 端末の位置に応じて適切な位置に給電コイルが移動する 「ムービングコイル」 を搭載する製品もありますが、 比較的高価なのがネックです。
またパッドタイプは一般に大型で、 場所を取ってしまうデメリットも。 購入時は設置スペースに適したアイテムを選ぶ必要があります。
スタンドタイプ
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スマートフォンを立てかけて充電するスタンドタイプは、 パッドタイプに次いでポピュラーな製品です。
シェーバースタンドやPHS・子機の充電器などと同様の感覚で使えて、 位置合わせの問題も少ないのがメリット。 スマートフォンの置き場所、 定位置を作れるという意味でも、 比較的導入しやすいタイプと言えます。
マウントタイプ
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IMAGE BY BELKIN
端末を物理的にホールド(固定)するマウントタイプは、 揺れの大きい車内での利用に適しています。 端末を台に固定する手順が必要ですが、 正確な位置合わせにより確実な給電が期待できるでしょう。
![belkin 3-in-1 magsafe wireless charger review-1 | quest ワイヤレス充電 Qi とは? 仕組みや規格を詳しく解説](https://kissanadu.com/wp-content/uploads/2022/01/belkin-3-in-1-magsafe-wireless-charger-review-1-1024x682.jpg)
Belkin BOOST Charge Pro 3-in-1 wireless charger。 PHOTOGRAH BY KUJO HARU
また、 先述の 「MagSafe」 に対応する製品も増えており、 こちらは磁石によりくっ付けるだけで位置合わせと充電が可能です。 次世代規格のQi2が普及すれば、 AndroidでもMagSafeが使えるようになるため、 対応製品がさらに増えるかもしれません。
モバイルバッテリータイプ
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PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
Qi対応製品のなかには、 持ち運びが可能なモバイルバッテリーもあります。 通常のモバイルバッテリーと同様、 電源がない場所でもワイヤレス充電できるのが特徴です。 小型タイプが主流で、 持ち運びに便利なアイテムと言えるでしょう。
非接触タイプ
![my-desk-renovation-2022-17 | quest ワイヤレス充電 Qi とは? 仕組みや規格を詳しく解説](https://kissanadu.com/wp-content/uploads/2022/07/my-desk-renovation-2022-17-1024x682.jpg)
CIO 「deskHack」 。 PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
ワイヤレス充電は一般に 「デバイスと充電パッドを接触させることで充電できる」 と説明されますが、 先述の原理を踏まえれば送電側と受電側が多少離れていても給電は可能ということになります。
Qi規格にはこうした 「疎な結合」 もコンフィギュレーションとして定義されており、 これを活用したものが非接触タイプ(正式な分類名称がないため、 本記事ではこのように呼称する)です。
たとえばCIOの 「deskHack」 は、 卓下に設置することで直上においた機器に給電ができるワイヤレス充電器。 Qiと互換性のある特許技術を採用することで、 非接触での高効率な給電を実現しています。
![my-desk-renovation-2022-08 | quest ワイヤレス充電 Qi とは? 仕組みや規格を詳しく解説](https://kissanadu.com/wp-content/uploads/2022/07/my-desk-renovation-2022-08-1024x684.jpg)
PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
deskHackの実用例について、 詳しくはデスク紹介記事をご覧ください。
まとめ
Qi充電器は、 置くだけでスマートフォンなどのデバイスをワイヤレス充電できる便利な規格です。 2023年には次世代規格 「Qi2」 のリリースも発表され、 今後は有線と比べて遜色のない充電スピードと安定性の実現に期待がかかります。
Qi登場時は最大5Wだった出力も、 現在では15Wに引き上げられ現実的な利用が可能になりました。 お手持ちのデバイスがQi規格に対応しているのなら、 この機会にぜひQi製品を購入して活用してみましょう。
SOURCE