目覚まし時計に起こされる朝。お気に入りの服に身を包んだら、バッグを持って外へ——友人からのLINEにスマホを手に取り、カメラで日々を記録する。おもえば、わたしたちの生活は常に「モノ」であふれています。
普段は気にも留めない沢山のモノたちが、実は日常を彩り豊かにしているのだと思うと、たまにはじっくり目を向けてみたくなるものです。
「PHILIA(フィリア)」は、分野を超えた様々な人が愛すべき”モノ”を語り、その魅力に触れる連載企画。プロダクトに興味を持つきっかけ、そして自分の「好き」を共有できる場所になればいいなと思います。
第1回は、”すべての人に演奏の楽しさを”という発想から生まれた全く新しい電子楽器「InstaChord(以下、インスタコード)」の魅力を、企画開発者の永田雄一さんに伺います。
永田さんは作曲家として楽曲提供のほか、ご自身も「湯〜イチ」としてミュージシャン活動をされています。元々は作曲の補助として、アプリの製作に始まったインスタコード。それがこうして形となったのは、より多くの人に楽器の楽しさを知ってもらいたい、という願いあってのことでした。
誰もが夢見た「挫折しない」楽器
美しい旋律を奏でるピアニスト、ドラムが放つ鮮烈なリズム、そして壇上に輝くギタリストの姿には、誰もが一度は憧れるものです。そうして実際に楽器に触れ、格闘した人も多いはず。
そんな人の多くが、音楽理論を学ぶなかで挫折してしまいます。最大の壁はコードにありました。
永田 : コードって、(初心者からみると)敷居が高くて、理解しづらいですよね。CとかGとか言われても、音としてイメージできない。その一方で、多くの人がコードで弾いてみたい、と思っているのも確かです。

「インスタコード」試作機。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
インスタコードは、コードの種類や指遣いを覚えずとも、直感的に演奏ができる楽器として開発されました。コード進行をイメージしやすい分、理論学習の近道にもなるといいます。まさしく、インスタントにコードの壁を超えられるアイテムというわけです。
一見するとギターのようですが、とてもスタイリッシュな見た目をしています。
永田 : 電子楽器なので本来はどんな形でも良いのですが、初めて見た人に「これは楽器なんだ」ということを理解してもらうため、このような形状になりました。
中央のディスプレーにはキーに対応するコードが一覧で表示されます。そのとなり、まるで弦のように配置された7×3のボタンは、画面上のコードと一対一で対応。ボタンを押すだけで、複雑なコード進行も簡単に弾くことができます。
コード記号は1〜9の番号に割り振られていて、たとえばキーをCに設定した場合、「F-C-G-Am」は「4-1-5-6」という具合に。さらに、ボタン一つでメジャーコードとマイナーコードの切り替えも一瞬です。コード記号や指使いを覚える必要なく、番号で音を直感的に理解できるのが、インスタコードの魅力なんですね。

「インスタコード」試作機。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
「弾ける」という感覚が大事
インスタコードの試作機をお借りして、実際に弾かせていただきました。
パッド部分は6弦構成。それぞれが独立して音を奏でるので、慣れればアルペジオも弾けるようになるとか。実際に弦を弾いているかのように演奏できるのは、これまでの電子楽器にない体験です。
永田 : 上手に演奏できるか否かは別として、弾ける、という感覚が大事なんです。ボタンを押してなんとなく弾いた気になるのではなく、自分で弾く体験、そこから得られる感動にこそ楽しさがあると思っています。
内部には感圧センサーが仕込んであり、強弱(ベ ロシティ)にも対応しているといいます。さらにパッドに手をおくと、続いていた音がストップ。まるで本物のギ ターを触っているようです。

本物のギターに近いポジションで操作できる。PHOTOGRAPH BY KUJO HARU
永田 : M7やSus4、dimなどのボタンと組み合われば、より複雑なコードを奏でることも可能です。そしてこのボタンを押すと…
ピアノ、バイオリンと、どんどん音色が変わっていきます。計128色から選択できるほか、音色に合わせて、はじく、叩く、押さえるといった様々な奏法ができるのも楽しいです。
量産機はBluetooth MIDI接続に対応し、DTM入力にも使えるそうです。てっきりエントリー向けの楽器と思っていましたが、プロユースでも十分満足な仕上がりになっているのですね。
みんなに愛される為のデザイン
永田 ガジェット的に特筆すべき点として、バッテリーを本体に内蔵しています。プロユースのみを想定した従来の電子楽器では、利便性よりも長く使えることが大事なので、発火などリスクのある電池は避けられてきました。ところがその代償として、モビリティーに課題があった。
——確かに、電子楽器は大きいし、重くて扱いづらいというイメージがあります。
永田 インスタコードは一般の人にも手にとって欲しいので、取り回しの良さを追求しています。USB Type-Cを充電に採用し、本体下部に設けました。
本体サイズも、ケースに入れて持ち運ぶことを想定して、A3用紙に収まる(縦幅)42cmにしています。いろんなところへ持っていって、弾けるように。
——プロ向けの電子楽器って、単体では動かせないものがあったりしますよね。
永田 そうなんです。外部機器に接続して使うのが前提だったり。そこも意識して、インスタコードは音源とスピーカーを内蔵しています。単体で演奏できるという意味でも、持ち運びには向いてますね。
——ほかにデザインでこだわった点はありますか。
永田 ボタンの配置や形状は、かなり試行錯誤しました。最初は押すだけのボタンをシンプルに並べるイメージでしたが、実際に弾いている感覚を味わってもらうことを考えて、最終的にはギ ターっぽ い並びになりました。
また、右利き・左利きで操作性に差がでないように、左右対象のユニバーサルデザインを採っているのも特徴です。
——実機を見たときの第一印象は「カッコいいな」でした。
永田 一見して楽器のように思えるけど、どこか未来感がある。「硬くもなく柔らかくもない」フォルムを目指しています。
開発のきっかけ
九条ハル
どうして「インスタコード」を開発しようと思ったのか、きっかけを聞いてみたよ!
永田 元々は自分が作曲する際のツールとして、スマホアプリを作ろうとしたのがきっかけです。ボタン一つでコードを変えられるような仕様を考えていました。でも作っていくうちに、こうした環境が初心者のコード練習に適しているんじゃないかと思うようになったんです。
——それでハードウェアとしての製品化に思い至ったのですね。昨年実施されたクラファンについてはどうですか。
永田 小ロットでの生産だったので、コストを考えて目標金額5,000万円は譲れませんでした。All or Nothing(注)ではじめたプロジェクトでしたが、見事目標を大幅に超える支援額を達成しました。
注: 目標金額に到達しなかった場合、サポーターからの申込みはキャンセル・全額返金、商品としてのリターンも発生しない。

IMAGE BY INSTACHORD
自身は専門が歌で、楽器演奏が苦手だったと話す永田さん。初心者でも気軽に弾き語りができる楽器を作りたい、そんな思いからインスタコードが生まれました。
実際にインスタコードを触って感じたのは、第一に楽しさ、そして、これなら初心者の自分でも弾けそうという感覚でした。楽器は完全に初心者のボクですら、King Gnu「飛行艇」のカッコいいサビがわずか数分で弾けたのですから。
インスタコードは既に量産体制に入っており、予約受付を公式サイトにて実施しています。興味を持った方は是非、チェックしてみてください。
永田雄一 (湯〜イチ)
作曲家、ボーカリスト。2001年から音楽活動を開始し、アカペラグループ OMU☆CHA 、おふろアイドルOFR48 の作曲を担当。「おふろdeアフロ」のボーカリストとして、幼稚園や温浴施設など、年間100本以上の営業ステージに出演する。
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